*時代パラレルです。
桜雲桜人、冤鬼零桜 序幕
――櫻の季節 人の心は鬼と化す――
はらり はらり と 乱れ舞う
薄紅色した 花びら は
久遠の 命を 従えて
また来る季節に 咲き乱れ
今年もまた桜の季節がやってくる。
もうすぐ、もうすぐまた逢えますね。
優しい瞳をした黒髪で紅眼の鬼が、少し膨らんだ桜の蕾を眺めている。
こうして"彼"の再来を待ち続けて、三つの季節をやり過ごした。
もう千年もの間、こうして毎年同じことを繰り返している。
春、桜が咲いている間だけの逢瀬。
孤独な時間の凄まじい寂寥感も、このたった数日で癒される。
だからこそ早く逢いたいと強く願った。
「左近」
春嵐に乗って耳に届く、凛と響く優しい声。
桜の花弁が舞い散る中、待ち望んだ彼がやってきた。
「おや、三成さん。お久しぶりじゃないですか」
無数に立ち並ぶ桜並木。
その中でも一番古く、一番大きな木の下に現れた彼は一年前と少しも変わらず、白い着物に身を包み柔らかい笑みを浮かべている。
だがその口からは嫌味のような棘を纏った言葉が吐き出される。
「一年振りだというのに随分な挨拶だな。早く俺に会いたかったと素直に言っても良いのだぞ?」
「何言ってるんです。ずっと側にいたじゃないですか」
桜が舞い散る中、こうして互いを想い互いを求め合ってる。
それはこの運命に巻き込まれてから毎年繰り広げられている逢瀬。
千年という気が遠くなりそうな時間。
しかしそんなものは二人の永遠の時間に比べれば、瞬き程の間だった。
左近は人の形をしていながらも人間ではなかった。
桜の季節のみ現れる三成も然り。
しかし想い合う気持ちは人と変わらない。
三成は左近を守り、また、左近は三成を守っていた。
ただひたすらに、互いを思い合って。
【続】