鬼遣
三成が倒れたと連絡を受けた元親は、ついにこの時が来てしまったかと逸る気持ちを抑えられなかった。
焦って何度も足が縺れ、転がるように三成の部屋へと辿り着く。
「石田!!」
勢いよく障子を開けると、中にいた部下二人が一斉に非難するような視線を元親に寄越す。
「アニキ!お静かに!」
声を潜め咎める部下達の向こう、部屋の中ほどに敷かれた床に就いた三成が音もなく眠っているのが見える。
元親は自らの口を押え、すまないと目で合図すると部屋の中に入った。
「……一体何があった」
「それが……今日は殊に顔色が悪いんで心配してたんっすけど、外で絡繰見て貰ってたら急にぶっ倒れたんで俺らほんっと吃驚して……」
「すいやせんアニキ。俺らがついてながら三成さんこんな目に遭わせちまって……」
見る見る態度を萎れさせる部下達の肩を叩き、お前達の所為ではないと励ます。
「いや、そうか。それで、具合はどうなんだ?」
「血の道が乱れて血の気が引いただけみたいっす。それ自体は心配ないみたいなんっすけど……」
何か心配事があるのかと顔色を変える元親に慌てて弁明する。
「いや!体の調子じゃなくって、そのー……」
「……三成さん……ここんとこ……飯、あんま食ってないみたいなんっス。医者が滋養が足りてないって言ってました」
「何?」
そんなはずはないと元親は眉を顰めた。
人の目のある場で食べる事を嫌がり、自室で食事を摂っているが確かに膳は毎度空になって返ってきていると世話役に付けている部下達は言っていた。
だが、では何故こうして滋養が足りない状態となり倒れたのかという疑問も浮かぶ。
元親はその場を部下達に任せると、部屋を出て真っ直ぐに庭を目指す。
「あれ?アニキ、どうかしたんすか?」
絡繰に群がる数多の部下達の中から三成の世話役を探し出すと近付く。
そして事の次第を説明すると、その者達はさっと青褪めた。
「何だ、どうした?何か心当たりあるのか?」
「い、いえ……俺らには……」
いつもならば真っ直ぐに元親の目を見る部下達が皆気まずそうに視線を逸らしている。
何かあると直感したが、問い詰めても誰一人として口を割ろうとしない。
「お前ら、何隠してやがんだ……俺には言えねえ事なのか?」
なるべく責めないように意識して声を和らげるが、急いた気持ちが明け透けになってしまうようで部下達は口を噤んだままだんまりを決め込んでしまった。
だが元親に対し隠し事は出来ないとぽつりと呟いた。
三成さんと約束したから言えません、とだけ残すと部下達は足早にその場から立ち去ってしまった。
あの口振りからして原因は三成にあるようだ。
しかし彼がそう易々と口を割るとは思えない。
となれば、三成が言うよりも先に別口で調べた方が早いだろう。
そう思い元親は自ら調査に乗り出した。